クロス補聴器とは、一側性難聴者の為に開発された補聴システムです。片耳が聞こえない、又は極端に左右の聴力に差がある方がこの補聴システムを使用されると、日常生活の様々なシーンで聞こえにくさの改善が見込める可能性があります。
この記事では、そんなクロス補聴器(クロス補聴システム)の仕組みや、メリット・デメリットを解説していきます。
1:一側性難聴とは?
2:クロス補聴器の仕組み
3:バイクロス
3:クロス補聴器のメリット・デメリット
4:クロス補聴器が合う人・合わない人
5:クロス補聴器がある補聴器メーカー
6:クロス補聴器を有効活用するためには
一側性難聴とは?
クロス補聴器とは、冒頭で述べたように一側性難聴者の為に開発された補聴システムです。
では、その一側性難聴とはどのような難聴なのでしょうか?
一側性難聴の人は、以下のどれかに当てはまります。
① 片耳が健聴でもう片耳が軽度から重度問わず難聴(全く聞こえない訳ではないが難聴)
② 片耳が健聴でもう片耳が聾(全く聞こえない)
③ 両耳とも難聴だが、聴力の左右差が著しくある
④ 両耳とも難聴だが、片耳が全く聞こえない
生まれつきの先天性の人もいれば、病気やケガなど後天的になる人もいるため、年齢は様々です。
後天的な一側性難聴の代表としては『ムンプス難聴』でしょうか。こちらはおたふくかぜの後遺症として起こります。
一側性難聴者の人は意外と多く、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会によると、500人から1000人に一人の割合になるそうです。
一側性難聴で困ること
片耳が健聴で、もう片耳が難聴又は聾の方の場合
この場合、日常生活では下記のように工夫しながら問題無く生活されているケースも少なくありません。
工夫している例
◎ 話を聞く時に良聴耳を相手に傾ける
◎ 話をする人の方に良聴耳を向けることができるよう、座る座席の位置を決める
◎ 人と歩きながら話す時に、話をする人の方に良聴耳を向けることができるよう立ち位置に気を付ける
◎ 周りの人に片耳が聞こえないことを伝えていて、良聴耳の方から話しかけてもらうようにしている
しかし、これらの工夫が出来なくなった場合には、聞こえにくさが顕著に表れます。
例としては
◎ 職場で席が固定されていて、聞こえない方からも話しかけられる状況
◎ 話しかけられる方向がバラバラな時
◎ 左耳が聞こえず、運転していて助手席(左)から話しかけられた時
これらは自分だけでは改善が難しいです。
一般的に、この状況になって、又はこういう状況が多くなった時に、不便さを解消したいと思われ始めることが多いようです。
両耳とも難聴で一側性難聴の方の場合
良い方の耳も難聴の人はどうなのかというと、それは生活全般で困ることが多いと言えます。
聞こえを支える良い方の耳が難聴ですから、人との会話や周囲の音など様々な部分で聞こえにくさが出てきます。
良い方の耳が健聴・難聴問わず、一側性難聴者には共通して聞こえにくい場面が存在します。
◎ 騒がしい場所での会話
◎ 音の方向感覚、音の位置
騒がしい場所では言葉の聞き取りが下がります。周囲のざわめきや物音と会話音の聞き分けが両耳聴と比べて難しくなります。
また、難聴耳の方から話されても良い方の耳で聞いてしまうため、音の方向感覚や音の位置が分からないということも起こります。
一側性難聴は良い方の耳は健聴である場合も多いので、自分自身は難聴であることを気にしにくく、周囲の人からは難聴だと気づかれないことも多いです。そのため、聞こえにくさを感じても周りからは理解されず、自分は聞こえにくい状況に戸惑いを感じてしまうこともあります。
クロス補聴器とその仕組み
クロス補聴器とは、一側性難聴者(片耳が特に聞こえにくい難聴者)を補聴する補聴システムです。
普通の補聴器は難聴耳を補聴するのに対し、クロス補聴器は難聴耳で聞くはずの音を良聴耳に届けて補聴します。
クロス補聴器を使用すると、本来は難聴耳で聞いているはずの音を良聴耳で聞かせることができ、聞き取りにくい状況を減らすことができます。
クロス補聴器は、クロスと呼ばれる送信機と受信機である補聴器で構成されています。
※以下 送信機をクロス、受信機を補聴器と呼称します。
注意点として、クロスと補聴器があれば何でも良いのかというとそうではありません。クロスと補聴器は同じメーカーでないと使用できませんし、同じメーカーでも器種によって対応できない場合があります。詳しくはクロス補聴器を取り扱っている補聴器専門店に確認されるのが良いと思います。
クロス補聴器の仕組みは、クロスのマイクに入ってきた音を補聴器に送信するだけのシンプルなものです。また使い方も簡単で、クロスを難聴耳に、補聴器を良聴耳につけるだけになります。
クロスと補聴器の通信はBluetoothが使用されているのが一般的です。以前は有線接続しかありませんでしたが、技術の進化に合わせて今のコンパクトで使い勝手はシンプルなスタイルになりました。また、音量調整ができたり、最近は充電式のものも発売されています。
クロス補聴器と普通の補聴器の違い
クロス補聴器と普通の補聴器は用途が違います。
クロス補聴器は、難聴耳で聞くはずの音を良聴耳に届けて補聴するのに対し、普通の補聴器は難聴耳を補聴します。
クロス補聴器と普通の補聴器、どちらを選んだ方が良い?
片耳だけ特に聴力が下がっている場合、普通の補聴器とクロス補聴器、どちらも選択肢に入ります。そしてどちらを選ぶかは難聴耳に普通の補聴器をつけて聞こえの改善が見込めるかになります。
両耳聴と片耳聴では、両耳聴の方が聞こえは良いです。ですから、難聴耳に普通の補聴器をつけて、良い耳と合わせて両耳聴にした方が聞こえの満足度は高くなります。
しかし、難聴耳に普通の補聴器をつけても聞こえの改善が見込めないケースがあり、その場合は、クロス補聴器を選択することになります。
普通の補聴器で改善が見込めるかどうかは、耳鼻咽喉科や認定補聴器技能者がいる補聴器専門店で相談されると良いと思います。
バイクロス
クロス補聴器は、バイクロスと呼ばれる使い方もあります。こちらは、聴力に左右差があり、且つ良聴耳も難聴である方が対象になります。
クロス補聴器は良聴耳に受信機である補聴器をつけますが、この補聴器を単なる受信機ではなく補聴器として音を増幅させるのです。つまり、良い方の耳も聴力が下がっているので補聴器で聞こえを良くしましょうということです。
クロス補聴器のメリット・デメリット
クロス補聴器のメリットは、聞こえにくい方向からの会話が聞きやすくなる、この一点に尽きます。
一側性難聴者は聞こえにくい方から話しかけられるのが苦手です。
自分で体の位置や座る場所を変えたりできる範囲であれば困ることは少ないかもしれません。しかし、例えば席が決まっていて聞こえにくい方からも話しかけられたり、左右問わず複数人から話しかけられるような状況だと、聞こえにくさに困ることが出てきます。